SDGsへの取り組みと企業ブランディング
SDGs(エスディージーズ)とは、2030年までに世界規模で取り組むべき「持続可能な開発目標(Substainable Development Goals)」のことですが、このSDGsを企業経営に取り入れることで、ブランドイメージ向上に結びついている企業が少しずつ増えています。
そこで今回は、SDGsへの取り組みと企業ブランディングの関係について考察しました。
SDGsへの認知と関心がこの1〜2年で急増
2021年5月、クロスマーケティングの調査によると、SDGsの認知率は2年で4倍になったとの結果報告がありました。また、電通が実施した10~70代の男女計1,400人を対象にした「SDGsに関する生活者調査」の結果によると、SDGsという言葉の認知率は54.2%で、昨年1月の第3回調査からほぼ倍増、また10代のSDGs認知率は7割を超えたとの発表がありました。2020年12月の楽天インサイトによる全国の老若男女1,000人に行ったアンケート調査でも、SDGsを「よく知っている」「聞いたことがある」という人は合わせて50.7%で、国民の2人に1人が知るホットなキーワードになったことがわかります。
SDGs認知率(時系列)
【出典】電通第4回「SDGsに関する生活者調査」https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0426-010367.html
前述の楽天の調査によると、SDGsを知った時期は「半年以内」(22.9%)、「1年以内」(27.8%)と答えた人が合わせて約半数、「2年以内」(14.2%)の人を加えると約65%を占めています。つまり国民のSDGsに対する関心が、この1〜2年で急速に高まってきたことが読み取れます。
さらに全国で10,000人を対象とした企業広報戦略研究所の調査によると、企業によるSDGsへの取り組みを認知した約7割の人が、その企業に対し何かしら能動的なアクションを起こしたと答えています。
具体的には「その企業や、商品・サービスのウェブサイトを閲覧するようになった」が28.2%、「その企業の商品やサービスを購入または利用した」が21.5%、「その企業や、商品・サービスの評判を検索するようになった」が18.5%です。
SDGs自体の認知度が高まっている今日、SDGsと積極的に向き合う企業姿勢を打ち出すことは、自社のブランディングを考える上でとても大切なポイントになりつつあります。
【参考】
クロスマーケティング「SDGsに関する調査」(2021年5月)https://www.cross-m.co.jp/report/other/20210528SDGs/
電通「第4回 SDGsに関する生活者調査」(2021年1月)https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0426-010367.html
楽天インサイト「SDGsに関する調査」(2020年12月)https://insight.rakuten.co.jp/report/20210128/
企業広報戦略研究所「魅力度ブランディング調査」(2020年6月)
https://www.dentsu-pr.co.jp/releasestopics/news_releases/20200923.html
企業がSDGsに取り組むことの意味
これまで企業は、「いかに収益を上げるか」を目的に事業活動を行ってきました。
多くの企業は良質の商品・サービスを提供することで業績を伸ばし、株価を上げ、集めた資本を再び投資につぎ込むという循環で拡大成長を遂げてきました。
しかし今日の企業はもっと根源的な部分、つまり自社の商品・サービスに込めた想いや経営姿勢、さらには社会との関わり方がステークホルダーに注視されるようになっています。将来に向けて自分たちが何を目指し、どのような姿勢で社会に価値をもたらそうと考えているのか。一連のストーリーが重要な意味を持つようになってきたのです。
こうした時流のもとでは、自社が持続可能な企業であり、将来にわたって地球と人類のことを考えている企業だということを、SDGsへの取り組みを通じてブランディングすることができます。株主や生活者にとっても、「SDGsに真摯に取り組む企業なら」と安心して投資をしたり、商品を購入したりする動機づけになります。
さらに、SDGsへの取り組みは従業員の発想や行動にも影響を及ぼします。世界共通の課題と真剣に向き合う企業姿勢を見せることで、従業員は事業とSDGsを“自分ゴト”としてとらえるようになるからです。
企業がSDGsに取り組むメリット
2017年のダボス会議で、「SDGsの推進により全世界で12兆ドル(約1,400兆円)の経済効果と、3億8千万人の雇用創出が可能になる」との推計が発表されたことも追い風となり、SDGsに取り組む企業は世界中で着実に増えています。
日本でも、自社サイトでSDGsへの取り組みを紹介する企業が増え、外務省のサイトにあるSDGsの取り組み事例には多くの企業が名を連ねています。
ではSDGsに取り組むことは、これからの企業にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
1. 新たなビジネス機会の創出につながる
貧困と飢餓の撲滅、気候変動への対策、クリーンで持続可能なエネルギーの確保など、SDGsが掲げる17の目標は地球規模で解決を図るべき共通の課題です。それはつまり世界中に切実なニーズがあり、巨大な潜在マーケットが広がっているということです。
こうした課題解決につながるような技術や製品、サービスなどの開発は、新たなビジネスチャンスに結びつく可能性が極めて高いと言えるでしょう。
そしてSDGsに熱心な企業同士のパートナーシップからも、新たな事業機会創出へのきっかけがつかめるかも知れません。
2. ステークホルダーとの関係性が向上する
SDGsに取り組むことは企業の信頼度アップに貢献し、CSR活動としても極めて重要な意義を持ちます。そして結果的にステークホルダーや取引先との関係性向上につながります。
逆にSDGsに熱心ではない企業は、世界共通の課題に関心がないと見られかねないため、将来的には取引先やサプライチェーンから外されたり、株主や地域社会の支援が得られなくなったりする可能性もあるでしょう。
そうしたリスクを未然に回避する観点からも、SDGsへの取り組みは必要性を増してくることになります。
3. ESG投資が重視される中、資金調達が有利になる
ESG投資とは、環境・社会・ガバナンスの3つの観点から企業を分析・評価し、投資先を選別する方法のことで、その市場規模は世界的に拡大しています。
中でも日本のESG投資額の伸び率は300%以上で(2014〜18年)、世界最高水準です。
コロナ禍の影響で財務情報による企業の評価が難しくなっているなか、ESG投資の比重は今後も高まっていくでしょう。そのためSDGsに積極的な企業は、ESG投資の対象として有望視され、資金調達面でますます優位性を増していくと考えられます。
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■今さら聞けないESGとは? 広報担当者が知っておきたいESGのメリットと重要性
4. 企業のブランディング強化につながる
SDGsに取り組む企業は、社会的責任を果たす意志のある企業として認知されるため、企業イメージの向上やブランディングにとって非常に効果的です。
また、SDGsに前向き=サステナブルな企業としてのブランドイメージが定着すると、先進的な考えを持つ優秀な人材が集まりやすくなります。
特に社会問題に関心が強いZ世代にとって、「SDGsに積極的かどうか」は企業選びの重要な基準の一つともなっているため、少子化が進むなか、SDGsは採用ブランディングの観点からも不可避なテーマとなりつつあります。
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■Z世代とのコミュニケーション方法とは? その特徴や価値観から考える
SDGsの推進に不可欠なインナーブランディング
SDGsは経営層や一部の部署だけで取り組むものではなく、社内全体で進めなければなりません。そのため活動方針を策定した後は、社内広報に力を注ぐ必要があります。現場で働く従業員のレベルにまで活動を落とし込まなければ、全社的なムーブメントになり得ないからです。
従業員にとってSDGsへの取り組みは、自社の社会的評価やブランドイメージ向上に結びつくため、帰属意識の強化やモチベーションアップにつながります。実際に、冒頭でご紹介した電通の調査では、就業者に「積極的にSDGsに取り組む企業が今後どのようになっていくか」のイメージを聞くと、「社会からの信頼」が68.0%で最も高く、「社員の会社への愛着(45.6%)」、「優秀な人材の確保(45.0%)」など、企業の積極的なSDGsへの取り組みで社員のエンゲージメントも高まる可能性が示されています。
一方、同調査で、就業者が自分の勤める企業のSDGsの取り組みを認識している人は44.8%でした。
そこで、カギを握るのは、SDGsへの取り組みに対する理解と共感を得るためのインナーブランディングです。ビジョンと施策をしっかりと社内で共有できるよう、社内報やイントラネットなどを通じて地道に情報を発信し続けることが肝心です。
まとめ
企業が価値を生み出す原動力となるのは従業員であり、SDGsへの取り組みを成功させるには従業員を巻き込むことが必須条件です。
しかしながらSDGsへの取り組みを、統合報告書などを通じて対外的にPRする企業は着実に増えていますが、社内への広報をおろそかにしている企業は少なくありません。
SDGsを事業活動にスムーズに導入していくためには、アウターブランディングとインナーブランディングを両輪として、バランス良く駆動させることが求められるのです。
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