ファンベースマーケティングはなぜ 新規顧客の獲得につながるのか?
長引くコロナ禍の影響もあって人々は外出や消費を控えがちになり、人と人とのリアルな接点は大幅に減っています。あわせて少子化・高齢化を背景に、国内の購買人口は長期的な減少基調にあります。
こうした新規顧客の獲得が困難な時代にフィットするマーケティング手法として、昨今注目され始めているのがファンベースマーケティングです。
ファンベースマーケティングとは?
ファンベースマーケティングとは、自社の商品に愛着を持ってくれているファンを大切に、ファンをベースにして、売上や事業価値を中長期的に高めていこうとするマーケティング手法です。
あえて既存の顧客にフォーカスする点が、新規顧客の獲得に主眼を置く従来型マーケティングとの大きな違いと言えるでしょう。
また、ファンベースマーケティングの根底には、「ファンと単なるリピーターは違う」という考え方があります。
例えば商品Aの「リピーター」ではあるがファンではない場合、同じスペックで安価な類似品が登場すればすぐに乗り換えてしまうでしょう。これに対してコアな顧客である「ファン」は、Aというブランドへの共感や愛着、信頼が土台になっているため、類似品が出ても安易に乗り換えたりはしません。
多くの企業では、売上の8割が2割の顧客によって生み出されるという「パレートの法則」が適用されます。この2割のコアな「ファン」と共に未来の価値を創出しようというのが、ファンベースマーケティングの基本的な考え方です。
ファンベースマーケティングはなぜ注目されているのか?
ファンベースマーケティングが注目を浴びるようになったのはなぜでしょうか。主な要因としては次の3つが挙げられます。
人口とライフスタイルの変化による新規需要の減少
日本の人口は2009年をピークに減り続け、2020年には鳥取県の人口に相当する50万人超が前年より減少しました。近い将来は毎年100万人ずつ人口が減ると推測されますが、これは新規顧客となり得る人口が物理的に減りゆくことを意味します。
その一方で、2024年には国民の3人に1人が65歳以上となる高齢化社会が到来しますが、高齢者の多くは新商品に飛びつくより、なじみある商品を買い続ける傾向にあります。
さらに2035年には人口全体の約半分が独身者になると言われ、結婚・妊娠・出産などのライフステージの変化に伴う新しい需要も減少していくと予想されます。
このように購買人口や新規需要が減少傾向にある中、自社の商品を購入してくれるユーザーを増やすには、コアなファンを土台にしていくことが重要な課題となってきたわけです。
超成熟市場における差別化の必要性
米国で行われた実験によると、スーパーに設置した試食コーナーで、「24種のジャムを試食できる場合」と「6種類のジャムを試食できる場合」の売上を比較したところ、「6種のジャム」の方が10倍多く売れたという興味深い結果が出ました。
つまり「選択肢が多過ぎると人は購買意欲が減退してしまう」ことを、この実験結果は示しています。
そして現代は、品質の良い類似商品が溢れかえる超成熟市場です。革新的な商品を発売しても、数年で後発に追随され競争力を失うことが珍しくありません。
こうした市場下では、ブランドに愛着を持ってもらうことが重要になります。なぜなら商品の機能価値はコピーできても、情緒価値はコピーできないからです。
そのため超成熟市場では、顧客から見た情緒価値を高めることが差別化する上で重要なアプローチとなり、コアなファンを育成するファンベースマーケティングに注目が集まってきたというわけです。
情報の過多と受け手の二極化
ネットの普及と共に人々は莫大な量の情報に囲まれるようになり、従来型のアプローチだけでは情報が生活者に届きづらくなってきました。今や個人でも安価にネット広告が配信でき、人が目にする広告の量も増えたため、必然的に1回当たりの効果は薄れています。
その一方で生活者は、自ら積極的に情報を取りに行ける高感度層と、検索やSNS等を含むデジタルの利用頻度が少ない低感度層に二極化する傾向にあります。
つまり、高感度層には情報が溢れ過ぎて届きづらく、低感度層にはデジタル手法が効きにくいという状況が同時に起きているわけです。
そこで注目され始めたのがファンベースマーケティングです。高感度層・低感度層を問わず、熱心なファンは愛着のある商品の良さを誰かに伝えたい気持ちが強いため、「類は友を呼ぶ」の言葉通り、近い価値観を持つ新規顧客を連れてきてくれる可能性が高いのです。
ファンベースマーケティング実践のためのポイント
それでは、ファンを作っていくためには何をすればいいのか?
まずは「ファンになってもらいたいのはどんな人か?」を考え、ターゲットを明確に定める必要があります。
その上で、下記の3つがファンベースマーケティングを実践するためのポイントになります。
価値自体を高めて 「共感」を強くする
ブランドや商品が大切にしている価値を高め、ファンの共感をより強めることがカギとなります。
そのためには、以下の3つを満たすことが必要です。
• ファンの声に耳を傾け、発見した共感ポイントに焦点を当て改良を加えていく
• ファンであることに自信を持ってもらう
• 新規顧客よりファンを優先する姿勢を明確にして喜ばせる
価値を代替不可能にして 「愛着」を強くする
愛着が強まれば強まる程商品は長く大切に使われ、かけがえのない存在になります。
そうなるには以下の3つが重要になります。
• 背景にある想いやこだわりを伝え、商品に物語やドラマをまとわせる
• ファンとのあらゆるタッチポイントを大事にし、ファン目線で改善していく
• ファンミーティングやイベント、コミュニティサイト等気軽に参加できる場を増やす
評価・評判を高めて 「信頼」を強くする
ファンからの信頼を強めるには、価値の提供元である企業の評価・評判を高めることが重要です。
そのためには以下の3つを考える必要があります。
• 常に「それはファンに対して誠実か?」と自らに問いかける
• 商品力や品質の根拠になる開発や製造工程など細部を丁寧に紹介する
• 社内コミュニケーションを強化し、社員を「最強のファン」にする
ファンベースマーケティングを実践するに当たっては、ファンからの「共感」「愛着」「信頼」を強め、ファンと共に成長を続けようとする姿勢が重要なのです。
ファンベースマーケティングが企業にもたらすメリット
ファンベースマーケティングは時間も手間もかかりますが、真剣に取り組むことでファンとの絆は深まり、やがて新規顧客の獲得にもつながっていきます。ファン自身のリピート購入や購入単価の向上も見込まれるため、中長期的な売上増も期待できます。ファンの声に耳を傾け商品がブラッシュアップされれば、ユーザー満足度が上がり、より一層コアなファンの育成にも結びつきます。
そしてファンと密接に関わっていく中で、社員も会社や商品への自信と誇りが強まります。ファンと共に「共感」「愛着」「信頼」を共有できる社員が増えれば、社内の士気も上がり、社員同士のコミュニケーションも活性化します。
こうしたポジティブなループがスパイラルに広がっていくことこそが、ファンベースマーケティングが企業にもたらす最大のメリットかも知れません。
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まとめ
ファンベースマーケティングは、ファンを囲い込んでお金を使わせ、利益を出そうとする「ファンマーケティング(ファンビジネス)」とは根本的に違います。
ファンの声を聴き、ファンと共に変化し、成長し、未来の価値を創り出していくことがファンベースマーケティングの基本コンセプトです。
今もし「売上が伸び悩んでいる」「新規顧客が増えない」という状態にあるなら、ファンの声に一度耳を傾けてみて下さい。そこに答えがあるかも知れません。

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