【エンタメの世界はインナーコミュニケーョンのヒントであふれている】第7回 「4番サード長嶋」という魔術

目次
スポーツエンタテインメントがもたらす、擬似共同体の物語と“まだ何も起きていないのに盛り上がる”瞬間とは?
去る8月2日深夜〜3日にかけ、東京ドームにて“KUSA1”の『長嶋茂雄さん追悼試合』が行われました。参加選手たちは喪章をつけ弔意を表しつつ、ゲームに臨みました。

おそらく、参加選手たちのほとんどは長嶋氏の現役時代をリアルタイムで体験していないと思われます。勿論、読売巨人軍の監督として、コメンテーターとして、アテネ五輪を目指した日本代表の監督として・・・などなど、指揮官としての長嶋氏をリアルタイムで観てきたとは思いますが。
しかし今なお、伝説として語り継がれる多くのエピソードは、その現役時代にあると感じています。そして、それは現在の大谷翔平選手に至るまで、多くのファンを魅了してやまないスポーツエンタテインメントがもたらす、擬似共同体の物語と言えるでしょう。
※“KUSA1”=各プロ野球スタジアムにおいて「草野球」を企画・開催している団体
※表記については「長嶋」「長島」の2種類ありますが、本記事では便宜上「長嶋」と統一しています
“共通の神話”は常に、そこにあった。そして今も
いつの時代も、スポーツエンタメがもたらす“擬似共同体”はそこにありました。そして、今もそこにあります。会社内でも、学校内でも、家庭内でも、飲み会の席でも、勿論スタジアムでのリアル観戦の場では言うまでもありません。
その“擬似共同体”という神話の中に、私たちはいます。
その格好の例が大谷翔平選手です。少なくとも筆者の周りでは、野球に全く興味がなかった人たちも「昨日の大谷のホームラン、打球速度やばかったよね」「いや、それよりもさ、マウンドに立った直後の打席でホームランってのが神だよ」などと言いつつ、盛り上がります。
さらには、野球の「や」の字も分からないのに、今年の東京ドームでのMLB開幕戦に足を運んだ人もいました。幸運なことに、その人が観たゲームでは大谷選手のホームランが飛び出し、翌日には興奮気味に語っていました。
そして、その記憶は、何年経っても共感できるものとなったでしょう。
それこそが「神話と感情の共有」が核となって形成される“擬似共同体”なのではないでしょうか。
昨年の大谷選手の50-50達成は、もっと多くの“擬似共同体メンバー”を生み出したと思います。
なぜなら、そのゲームは繰り返し再放送されたからです。むしろ、多くの“擬似共同体メンバー”を生み出すために再放送したのでは? と思えるほどの神話でした。

たった7文字で空気が変わる魔術
大谷選手の話ばかりになってしまいましたが、昭和のある時代に、その人はグラウンドにいました。そう、長嶋茂雄選手(当時)です。
長嶋氏現役時代をギリギリ知っている筆者は、今時のMLB中継を見ていて、スタジアムでイチロー選手(もう引退しましたが、殿堂入りしました)や大谷選手がコールされる時の“あの感じ”と、「4番サード長嶋」とコールされた際のスタジアムの“あの感じ”は、全く異質なものとして記憶に残っています。
おそらく決定的だったのは、伝説となっている1959.6.25の天覧試合におけるサヨナラホームランではないでしょうか(さすがに、これは筆者もリアルタイムではありませんが)。
この試合では王選手もホームランを打っていますが、長嶋選手が打ったサヨナラホームランは、天皇陛下の球場退出予定3分前のことだったようです。
あまりにもドラマチック過ぎるこの展開こそが、「4番サード長嶋」という、スタジアムに響き渡るただの打順と守備位置と名前の組み合わせにすぎない7文字を、スタジアムのみならず、ブラウン管のこちら側(お茶の間)の空気さえも一変させてしまうものになったのではないかと思います。
その空気は一体感を伴って波となり熱気となり、「絶対に何かが起きる」と“確信”させるものがありました。
今にして思うと、イチロー選手や大谷選手の場合も熱気は巻き起こるのですが、“確信”ではなく「何かが起きるかもしれない」という“期待”であるように思います。
ゆえに、「4番サード長嶋」というコールこそが“まだ何も起きていないのに盛り上がる”瞬間だったと言えるのではないでしょうか。
社内版「4番サード長嶋」という魔術は、そこにあるか?
「4番サード長嶋」という7文字には、スタジアムの匂い・実況アナウンサーの声・満員のスタンドのざわめき・夕暮れのオレンジ色が一気に詰め込まれてたのかもしれません。
つまりこの7文字は、状況を丸ごと召喚するトリガーになっているとも言えます。
もしかしたら、皆さんの社内でも、「名前を聞いただけで空気が変わる」瞬間を作れる人物がいるかもしれません。
例えば、日常の仕事の中で「あ、会議の場にこの人がいるだけで何かが起きる」「この人がクライアントに同行するだけで空気が変わる」「この人が関わるだけで成果の見え方が変わってくる」など。
インナーコミュニケーションの究極目的の一つに“真の一体感”の醸成があるとするならば、この魔術を活かさない手はないでしょう。
組織において、人は抽象的な理念よりも具体的な“人”を媒介として感情を共有することの方が多いはずです。
「○○さんが来た! 何かが起こるぞ」「○○さんがプロジェクトメンバーに入ってくれた! これは只事ではない」、さらには「○○さん、今日お休みだって! 一体何があった?!」といったことまで、ある人の名前が呼ばれた瞬間に全員が同じ方向を向いてしまう・・・そう、「向く」のではなく「向いてしまう」。
ここには、“自然と生まれる一体感”があります。
そんな人物(もしくは、何らかのチームでもいいかもしれません)が社内報の顔となり、インナーコミュニケーションの軸となるようなムーブメントを起こすことができれば、もうこれは、素晴らしい“魔術”となるでしょう。

例えば社内報でも、「○○さんが表紙に登場するだけで面白そう!」と思わせる流れを構築し、そこに物語を持たせるなどできれば、あとは放っておいても周囲が勝手にその“魔術”の効果を増幅してくれます。
そう、その人物は社内における「4番サード長嶋」なのです。そしてもしかしたら、その人物は明日、あなたの前に現れるかもしれません。
そんな目線を持って、インナーコミュニケーションの場に立ってみると、組織の新たな一面を見出し、活性化させることができるのではないでしょうか。

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